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概念 #栄養 #糖質 #インスリン #血糖 #生化学 #消化 📚 栄養と脳科学

糖質の消化・吸収・血糖プロセス(詳細)

口から摂取した糖質が血液に取り込まれるまでの生化学的プロセス。アミラーゼによる分解・SGLT1による吸収・インスリン分泌のメカニズムを詳細に解説

糖質の種類(出発点として)

単糖(これ以上分解できない最小単位):
├── グルコース(ブドウ糖):主要エネルギー源
├── フルクトース(果糖):果物・砂糖に含まれる
└── ガラクトース:乳糖の構成成分

二糖(単糖が2つ結合):
├── スクロース(砂糖)= グルコース + フルクトース
├── ラクトース(乳糖)= グルコース + ガラクトース
└── マルトース(麦芽糖)= グルコース + グルコース

多糖(単糖が多数結合):
├── デンプン(植物の貯蔵糖質)= グルコースの長鎖
├── グリコーゲン(動物の貯蔵糖質)= グルコースの枝分かれ鎖
└── 食物繊維(ヒトの消化酵素では分解できない多糖)

Step 1:口腔での消化

食べ物が口に入る

唾液腺からα-アミラーゼ(唾液アミラーゼ)が分泌

デンプンのα-1,4-グリコシド結合を切断

デキストリン・マルトース・マルトトリオースに分解

(α-1,6結合(枝分かれ部分)は切れない)

所要時間:咀嚼中の数十秒
分解完成度:部分的(全体の数%程度)

→ よく噛むほどアミラーゼが働く時間が増える

Step 2:胃での停滞

食物が胃に入ると:
・胃酸(pH 1〜2)によりアミラーゼが失活
・タンパク質の分解が始まる(ペプシン)
・糖質自体の酵素分解はほぼ止まる

胃での役割:
→ 内容物を撹拌・粥状化(キモス)
→ 幽門括約筋が少量ずつ十二指腸へ放出(ゆっくり)

胃の排出速度が血糖上昇速度を大きく左右する:
食物繊維・脂質・タンパク質が多い → 排出が遅くなる → 血糖上昇がゆるやか

Step 3:小腸での消化(最重要ステージ)

十二指腸へ流入

膵臓からの膵液が合流:
├── 膵α-アミラーゼ:デンプン→マルトースなどに分解
└── 重炭酸塩:胃酸を中和(pH 6〜7に戻す)

小腸上皮細胞の刷子縁(ブラシボーダー)の酵素群:
├── マルターゼ:マルトース → グルコース + グルコース
├── スクラーゼ:スクロース → グルコース + フルクトース
├── ラクターゼ:ラクトース → グルコース + ガラクトース
└── グルコアミラーゼ:多糖の末端からグルコースを切り出す

最終産物:すべて単糖(グルコース・フルクトース・ガラクトース)

Step 4:腸管上皮細胞への取り込み(吸収)

単糖が腸管上皮細胞に取り込まれる方式が種類によって異なる:

グルコース・ガラクトース:
→ SGLT1(ナトリウム依存性グルコーストランスポーター1)
  ・ナトリウムイオンと共に能動輸送(エネルギーが必要)
  ・飽和する(一度に大量に入れると追いつかない)

フルクトース:
→ GLUT5(促進拡散・エネルギー不要)
  ・受動的に取り込まれる
  ・高フルクトース摂取時はそのまま素通りしやすい
    (→腸内細菌のエサになる・浸透圧性下痢の原因)
    
上皮細胞から毛細血管側へ放出:
→ GLUT2(基底側膜)から門脈へ

Step 5:肝臓での処理

門脈血(グルコース・フルクトース・ガラクトース混合)

肝臓に到達(門脈循環の「第一関門」)

グルコース:
├── 一部は肝臓内でグリコーゲンとして貯蔵
├── 一部はそのまま全身循環へ(血糖として)
└── 過剰分は脂肪酸合成へ(肝臓での脂肪合成:De novo lipogenesis)

フルクトース(ここが重要):
├── 肝臓でほぼ全量代謝される(フルクトキナーゼで処理)
├── グルコースのような「インスリンによる取り込み制限」がない
├── 代謝経路が規制されず、大量に脂肪酸合成へ
└── 中性脂肪(TG)・VLDL増加 → 脂肪肝リスク

→ 「果糖(フルクトース)は肝臓にとってアルコールに似た代謝」
   (ロバート・ラスティグ:「Fat Chance」著者)

Step 6:血糖上昇とインスリン分泌

血液中のグルコース濃度が上昇(血糖上昇)

膵臓のランゲルハンス島β細胞がグルコースを感知:

グルコースがβ細胞に取り込まれる(GLUT2経由)

グルコース代謝 → ATP産生

ATP感受性K+チャネルが閉鎖

β細胞の膜電位が変化(脱分極)

電位依存性Ca²+チャネルが開口

Ca²+流入

インスリン含有顆粒が細胞膜と融合

インスリンが血中に放出(開口分泌)

また:
・GLP-1(インクレチン):腸管から分泌されてインスリン分泌を増強
・GIP(胃抑制ポリペプチド):同様の役割

Step 7:インスリンによるグルコースの細胞取り込み

インスリンが受容体(インスリン受容体:チロシンキナーゼ型)に結合

自己リン酸化 → IRS-1(インスリン受容体基質)リン酸化

PI3K → Akt(PKB)の活性化

GLUT4を含む輸送小胞が細胞膜へ移動(輸送小胞の膜融合)

GLUT4が細胞膜に表出 → グルコースが細胞内に取り込まれる

GLUT4が豊富な組織:
├── 骨格筋(最大の取り込み場所)
├── 脂肪細胞(インスリンで脂肪蓄積促進)
└── 心筋

肝臓・脳はGLUT4を使わない(インスリン非依存で取り込む)

血糖値の動態

空腹時血糖:70〜100 mg/dL(正常)
食後2時間:140 mg/dL未満(正常)

食後の血糖曲線(精製糖質の場合):
100 mg/dL(空腹)
    ↓ 急上昇(30〜45分でピーク)
160〜200 mg/dL(血糖スパイク)
    ↓ インスリン急増
    ↓ 血糖が急速に下がる
80〜90 mg/dL(反応性低血糖:元より低くなる場合も)
    ↓ 空腹感・倦怠感・集中力低下・甘いもの欲求
次の食事へ...(サイクルの繰り返し)

GI(グリセミック指数)とGL(グリセミック負荷)

GI(Glycemic Index):
純粋なグルコース(GI=100)を基準にした
血糖上昇速度の指標

GI 70以上:高GI(白米・白パン・ポテト・砂糖)
GI 56〜69:中GI
GI 55以下:低GI(全粒穀物・野菜・豆類)

限界:GIだけでは「どれだけ食べたか」が考慮されない

GL(Glycemic Load)= GI × 摂取糖質量 / 100
より実用的な指標

例:スイカはGI高いがGL低い(水分が多く糖質量が少ない)

食物繊維の役割

水溶性食物繊維(オート麦・豆類・果物):
→ 腸内でゲル状になる
→ 糖質の消化・吸収を物理的に遅らせる
→ 血糖スパイクを抑制
→ 腸内細菌のエサ(プレバイオティクス)

不溶性食物繊維(野菜・全粒穀物):
→ 腸の蠕動運動を促進
→ 排便の改善

→ 同じ糖質量でも「食物繊維と一緒に食べるか」で血糖上昇が大きく変わる

関連トピック

出典: 生化学教科書(ストライヤー)/ 栄養学教科書 / グルコース代謝研究群